東京高等裁判所 平成9年(ラ)850号 決定 1997年5月14日
①事件
抗告人
中稲隆彦
右代理人弁護士
鈴木和雄
相手方
今清水修
主文
一 本件執行抗告を棄却する。
二 執行抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
一 本件執行抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。」旨の裁判を求めるというものであり、その理由は、要するに、(1)相手方は、本件建物の共有持分五分の一を買い受けたに過ぎず、引渡しは共有物の管理行為であるから、建物の共有持分の一部を有するに過ぎない者が引渡命令を求めることはできない、(2)相手方が本件建物の底地の所有者である鴨下博に対し借地非訟手続で土地賃借権持分の譲渡承認を求めたところ、鴨下博は、平成九年四月二五日の同手続期日に介入権を行使したので、相手方はいずれ本件建物に関する権利を失い、一方鴨下博は、抗告人に対して右介入権行使により本件建物の持分を取得した場合には抗告人の賃借を認める旨明言しており、このような状況下で引渡命令を許容するのは不当である、というものである。
二 本件記録によれば、本件建物の債務者兼所有者らの共有持分(債務者兼所有者飯田榮子の共有持分四五分の六、同戸田久美子の共有持分四五分の一、同飯田昭一の共有持分四五分の一、同沼尻麻利子の共有持分四五分の一、以上合計五分の一)について、①平成元年三月一四日債権者田中忠雄から任意競売の申立てがあり、同月一五日受付で差押登記がされ、平成二年一一月二一日債権者株式会社すずやすから強制競売の申立てがあり、同月二八日受付で差押登記がされたこと、②平成八年一〇月九日相手方を買受人とする売却許可決定がなされ、同年一一月一九日相手方は代金を納付したこと、③抗告人は、本件不動産引渡命令に係る原裁判所の審尋に対して、抗告人は債務者である戸田久美子の夫である戸田昌治から本件建物を平成八年八月二五日に賃借し、爾来本件建物を占有している旨回答したことが認められる。
ところで、相手方のように不動産の共有持分(合計五分の一)を買い受けた買受人は、債務者や他の共有者以外の第三者が目的物を権原なしに占有する場合には、保存行為に関する民法二五二条但書により、または、不可分債務に関する同法四二八条の類推適用により、単独で自己の共有持分権に基づいてその引渡しを請求できるものというべきである。そして、抗告人の本件建物の占有権原は債務者以外の他の共有者の共有権原に基づくものではなく、しかも差押え後に占有が開始されたものであるから、相手方は単独で抗告人に本件建物の引渡しを求めることができるというべきであり、本件不動産引渡命令は適法であって原裁判所の決定になんら誤りはない。
また、抗告人の抗告の理由(2)は、それ自体では不動産引渡命令の発令を妨げる理由とならない。
三 以上のとおり、本件執行抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官大島崇志 裁判官寺島洋 裁判官豊田建夫)